2018年01月14日

ラブドールと青年2 171013

どんよりとした曇天がつづく。洗濯物でも干そうかと思えばすぐこれである。
買い物に行こうとした瞬間に雨がふりだす、一人ピクニックにいかんとすると雲が立ちこめ強風が吹く。
悪天候がいまかいまか、とタイミングよく飛び出すのを待っているかのように思われる。これでは雨男というより痾男だ。ちなみに痾とは呪いのように長引く病気のことらしい。
ビョーキレベルで天候に愛され弄ばれる男。ああ、これが天気などではなく色めく可憐な少女であれば、今後どれだけの大雨に見舞われようと構わないというのに。

ところで先日発注したドールの中国人らしき業者に、瞳の色だけカスタマイズしてくれるよう懇切丁寧に頼むと、一言だけ「おk」ときた。
中国ではアメリカ以上に気さくな人間関係が形成されているのだろうか、どこか不安になってくる。客に対して二文字で返答とは、なかなかの上級者ではないか。
もしかすれば二文字縛りでコミュニケーションを行うきわめて高度な情報伝達手段が大陸内では流行しているのかもしれぬ。
うん、とかはい、くらいしか思いつかないが、それで会話が成り立つものだろうか。と訝ったが、実際のところ私の現実における乏しい会話とそんなに変わらない気がするので杞憂であった。それにここで配送を無言中断されては大変困るので、とりあえずゴマをすっておくのが正解であろう。

親の転勤で、遠い異国の地に引き裂かれた少年と少女が文通をはじめ、その手紙をお互い今か今かと待っている……それならば美しい話なのだが、いい歳したむさい男がラブドールを今か今かと手ぐすね引いて待っているのは、たしかにあまり美しいものではない。短期間で終いにするのが望ましい。おk、はあく。

気づかぬうちに、ドール用の衣服も買い漁っていることに気が付いた。

ブリードがおきなさそうな撥水性っぽいものを優先し、後染めされたものをなるべく避け、色移りを防ぐべく白色のものを選び、全身タイツも一応手に入れ……とやっているうちに、もうここ三年自分のために費やした衣類費をはるかに凌駕する金額をつぎこんでいることにはっとなり、そしてぞっとする。私はいったい何をしているのか。
もうだめかもしれない。しかもまだ見ぬ乙女のため選りすぐった服は、どれもこれもどこかの女王様が着ているような傾向のものばかりになっていた。

理性がふて寝ているうちに欲望が一人歩きでもしたのか、これでは亜麻色の女王様に乗るというより乗られてしまいかねない。だがたしかに私の中にマゾヒストの気があるのは否定しがたい事実でもあった。
ふやけた脳内で構築された会話の中では、「もっとわたしに貢ぎなさい、服を買え化粧品を買え、メンテナンスを怠るな」と命ぜられ、恍惚の表情を浮かべ馬車馬のようにネットの荒野を駆け巡るちっぽけな自分が容易に想像できてしまう。
ほうっておくとこの唯一の聖地といえるワンルームさえ乗っ取られかねず、私はその重みに耐えられるか心配になった。

ここにきて、彼女への想いはますます募り、自分の中では身勝手ながらも身分不相応なまだ見ぬ彼女への期待が高ぶっていく。
いや、過度な期待は禁物である。それではただ迸るきちゃない欲望を投げつける行為、そのようなものは恋でも愛ですらもない。
わたしが求めたのは単純な肉体関係から派生する恋愛ドラマのような、チ−プであざとくぺらっぺらのものなどではなかったはずだ。
もっとこう崇高で純粋、覚めやらぬ情熱と清廉さが共存共栄した、およそ一般人が口にする恋愛とは一線を画す、プラトニックでありながらプラグマティックなまさにオンリーワンでかけがえのないものではなかったか。ロンリーワンでナンバーワンな私がそんな夢物語に浴するなどおこがましいといいたいであろう。正直に言おう、私もそういいたい。

ああなんと私は欲深で罪深なブカブカ野郎なのだとか煩悶しつつ、彼女のためのスペースを空けようとイソイソ部屋を掃除する自分がいて挙動不審となる。これはもうだめである。
外にでて雨にでも打たれたほうがいいかもしれない。
とまあ意を決して外に出た途端雨が止んだりするから、まったく天気のやつとは本当にそりが合わない。ここは戦略的撤退、早々に寝床に入って明日に備えるにかぎる。
とその前に、彼女の物理的重さに耐えられるよう足腰をきたえておかなければ……


それにしても涼しくなった。昨日一日で平均気温が10度近く下がったらしい。ああ、人恋さびしい。だれかわたしを愛してくれ、ちくしょう。もういっそ文通でもはじめちまうか。顔もまだ見ぬ年頃の女性と手紙を交換するなんて、なんと心ときめくシチュエーションではないか。
ドールが来るまで日もあるし、文通を始めるのも悪くはないとネットのコミュニティを徘徊するものの、相手の期待に沿う自信のなさ故に、最初の一歩が踏み出せないでいるのだった。
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posted by doskoinpo at 18:22| Comment(0) | ラブドールと青年

2017年10月29日

ラブドールと青年1 171012

秋の夜長、涼しくなった風に金木犀の香りが漂いだすと、いてもたってもいられなくなるのはなぜなのか。
高くなった空に雲がゆっくりと流れる。澄んだ夜空でちっぽけな星ぼしが不安げにまたたく。
そうしてふと隣を見れば、いつのまにかくりっとした眼の愛らしい彼女がそばにいて、何気なく出来合いのコーヒカップを差し出すだろう。
私はそれをそれとなく受け取りつつ、湯気立つカップのむこうに、憂いに満ちた乙女の横顔を眺めるのだ。


……なぜ私の隣には誰もいないのか。

いてもたってもいられない。こんなはずでなかった。
そんな焦りに心ざわめくのは私だけではないだろう。
そうにちがいない。
世にあまねくすべての男たちが、今この瞬間も途方にくれているにちがいないのだ。
ちくしょうこのやろうと、心のきちゃない部分を吐き出すべくサウナのような蒸し暑いワンルームに閉じこもり、パンツ一丁でシャドーボクシングをしているのだ。
汗が舞いちり、全身から湯気が立つ。くそうくそうと虚空に向かってこぶしをふるう。もう夏はとっくに終わったのに。
いや諸君らはまちがっていない。その気持ち、私にはよくわかる。
だってそうでなければ、あんなものが世の中に出回るはずが無いのであって、
それを考慮すればわたしの振るまいはすべてがなにもかもが森羅万象なんら恥じることなく合理的であるともいえた。
そして合理の権化となった私は、とあるひとつの決断を下す。
そう……私はこの秋、心の強靭性を保つべく、
心の清らかでピュアでなんだかやわらかそうな部分からの切実な求めに応じ、
あくまで合理的理性に基づいて、ラブドールを買った。
いかがわしいことは一切内。


ラブドールというものはひどく値段が高いときく。
わたしもそう思っていたし、だから独身や童貞まみれの現世においても、それに手を出す輩が少ないのだろう。
そう、思っていた。
うそ。思わなかった。
だが世間の目がきになったり、人恋しさにまかせて悪魔に魂を売るようなまねをすればなにか後戻りできなくなるような予感はあった。
ひとたびそのラインを超えてしまえば、ガシャンと天から巨大な鉄の牢が落ちてきて、二度とでること敵わず。
外では和気藹々と少年少女が手をつなぎ、若人たちがキャッキャむつごとを交わしなにやら盛り上がっている。
私一人を収めた檻のまわりをぐるぐると囲み、楽しげでいやらしい笑みを浮かべ、暑苦しいフォークダンスを踊っている。もしかしたらそこにかつての自分を見出すものもいるかもしれない。
私だってそうだ。
それなのに、その輪に混ざることなく冷たい檻の中でただ自分の指を舐めしゃぶるしかないというのか。
一点の曇りもない、清く純粋な童貞である。
まるで未来を予感させるような童貞である。
私だって、笑顔の美しい亜麻色のいい匂いのする巨乳の乙女と手をつなぎ、朗らかに微笑んでダンスを踊りたい。
私はここにいる。やればデキる童貞だ。
未来、そう。私は未来そのものだ。
未来の童貞だ。
けっして未来も童貞ではない。こんなところで蹴躓いていられるものか――


そんなピュアな私の眼に、突如として得体の知れない美少女と、そして数字の羅列がうかびあがった。

驚いた。
こんな美少女が、このような値段で売られていようとは。
PCの画面に映し出されるそれはまさに、秋の夜空を彩る金木犀を思わせる、憂愁を帯びた異国の少女だった。
美しい。もし手でも握って二人街中を歩いたとすれば、きっと誰しもがふりかえり、驚愕に打ち震えるにちがいない。
プレイボーイなら「俺はいままで何やってたんだ」と震え、既婚者ならばその場で地団駄を踏み、童貞は未知なる美を前に恐怖で震え射精。
日本の局所で男子直下型地震を引き起こす比類なき力を秘めし美少女……
そんな彼女が、二輪免許でも取得するような手ごろな値段で提供されている。何かの手違いかと思ったがそうではない。
きらきらと天から降ってきたのは錆びた鉄の檻などではなく、白く輝く蜘蛛の糸だったのだ。
もちろん私はそれをノールックでつかみとった。

いいぜ、のってやる。
君たちがこれみよがしにイチャイチャとフォークダンスを踊るというのなら、私は檻の中でこの美少女と情熱のタンゴを踊ってみせる。
君たちが二輪にまたがるなら、私は亜麻色の髪の乙女にまたがろう。
ゆびをしゃぶってうらやましがるのは諸君らだ。
きっと乗りこなしてみせる。快音を奏でながら、秋の夜長のフリーウェイをこの乙女ととことん突っ走ってみせようではないか。せいぜいバターになるまで踊っていたまえ、腑抜けたあんぽんたん共め。

私はこの秋、変わってみせる。下宿のワンルームから始まる新世界のアダムとイブ。夏よさらば。
超えちゃいけない大人へのラインを、私はいま、まさに踏み越えんとしていた。
posted by doskoinpo at 14:40| Comment(1) | ラブドールと青年

2017年01月23日

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定期age

posted by doskoinpo at 16:07| Comment(1) | イラスト